前の10件 | -
長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー(愛知県美術館) [美術展]

長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー
2017年10月6日(金)~11月19日(日)
愛知県美術館
大津から名古屋へ。愛知県美術館の長沢芦雪展はもふもふのわんこが勢ぞろい。癒されました。犬のかたちは師匠 円山応挙のオリジナルだけれど、弟子の芦雪たちもこぞって犬を描いているのはきっとそのかわいさゆえでしょう。特に芦雪は動物好きだったんじゃないかしら。虎、象、牛、雀…たくさん動物を描いているし、どれにも愛しさを感じます。
なかでも無量寺(和歌山県)の「虎図襖」のトラのふてくされた表情ったら!ぐにゅーんと伸びた体やくるりんと丸まったしっぽもあり得ないからこそ、キャラが立っててかわいい。今回の展示では無量寺の方丈が再現されていて、中央の内陣の左右に「虎図」と「龍図」の襖がしつらえられていました。畳と柱と長押と欄間と一体になった襖絵だからこそ、厳かな宗教空間でちょっとふざけたトラが絶妙なコントラストとなって効いています。それに露出展示だから、虎や龍の襖からはみ出さんばかりの大きさを感じられました。展示ケースの中に閉じ込められていたらこうはいきません。虎図と龍図の裏側に描かれている猫と子どもの絵を見ることもできたし、これ以上はない展示構成です。主催者は大変だったと想像しますが、見る側にとってはうれしいし、芦雪さんも喜んでいると思います。


大津京遷都1350年記念 大津の都と白鳳寺院(大津市歴史博物館) [美術展]

大津京遷都1350年記念 大津の都と白鳳寺院
平成29年10月7日(土)~11月19日(日)
大津市歴史博物館
日帰りで滋賀から名古屋へ。きつめなスケジュールだけれど、思い立ったが吉日です。まずは大津市歴史博物館の「大津の都と白鳳寺院」へ。
今年は天智天皇が近江大津宮に遷都して1350年。ただこの大津宮は遷都の4年後に天智天皇が崩御し、壬申の乱の後に都は飛鳥に戻ったので、5年半ほどで廃都になってしまったそう。その正確な場所も近年まで分からなかった幻の都です。だから展示品も見慣れている「守り伝えられてきたお寺の仏像」ではなく、発掘調査で出土した瓦や塼仏(せんぶつ)が多く、その由来も南滋賀町廃寺、穴太廃寺、真野廃寺、とにかく廃寺ばかり。西大津の町って廃寺の上に成り立っているのかと思うほどでした。ここでいう廃寺とは長い年月の間に打ち捨てられてお寺の名前さえわからなくなってしまい、今の地名で呼ばれる寺院の遺跡のことだそう。物哀しいです…。
その廃寺ばかりの大津京を代表する寺院が天智天皇の建立による「崇福寺」。崇福寺はかろうじて名前は伝わっていますが、お寺自体は鎌倉時代後半に廃絶し、今は礎石だけが残るのみだそうです。なんだか聞いたことのある名前だなぁと思っていたら、解説文で心礎から出土した国宝の舎利容器が紹介されていました。その舎利容器、折りしも京都国立博物館の国宝展に出品されていて、つい先月に見たばかり。緑色のガラス製の小壷で、外容器は金製・銀製・金銅製の箱が入れ子になった豪華なもの(写真)。そのときは崇福寺の名前は気にも留めず、“7世紀にこんなにも精緻で手の込んだ舎利容器が造られたなんてすごいなぁ”と思っただけでしたが、改めてあの舎利容器が崇福寺跡からの出土だと知って、大津宮に対する天智天皇の願いの強さを思い知りました。
天智天皇といえば、乙巳の変のクーデターを起こした人物。狡猾なイメージが強く、仏教に熱心だとは思っていませんでした。だけど、平城京や藤原京より前に天智天皇は「仏都」としてこの地を造営したのかもしれません。5年半という短い期間だったから、その痕跡は失われてしまったけれど、その思いはタイムカプセルみたいに土の中に埋まっていて、こうやって1350年後に届けられました。
重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎(永青文庫) [美術展]

重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎
2017年9月30日(土)~11月26日(日)
永青文庫
週末にもかかわらず展示室には人がいなくて、独占状態でゆっくりと鑑賞できました。南禅寺の塔頭 天授庵を細川幽斎が再興したことから、今回、方丈の襖絵(長谷川等伯筆)が永青文庫で公開になったそうです。ちらしのトラネコ(禅宗祖師図)は前期展示だったので、後期展示では会えず、ロバに乗る4人の隠士と従者を描いた商山四皓図の方をみました。とっても自由というかテキトーな感じの描き方。鬼気迫る長谷川等伯のイメージとは程遠かったです。天授庵には行ったことがないので、次に南禅寺に行く機会があれば寄ってみたいと思います。
東京国立博物館の総合文化展(2017年11月) [美術展]
東京国立博物館の総合文化展(2017年11月)で撮影した写真です。
宗教美術は装飾経と仏像2体と禅僧の書。

法華経(久能寺経)(重要文化財 平安時代)駿河国久能寺(現鉄舟寺、静岡県静岡市)に伝わったキラキラな装飾経。多大なご利益がありそうです。久能寺は推古天皇の時代に草堂が建てられたという古いお寺。明治になって山岡鉄舟が再興したことから鉄舟寺となったそうです。

阿弥陀如来坐像(静岡・願生寺蔵 鎌倉時代)運慶周辺の仏師の作と考えられるお像です。願生寺は静岡県裾野市にある時宗寺院。久能寺経とは静岡つながり。

男神坐像(重要文化財 大将軍八神社蔵 平安時代)今年1月、東博の「博物館に初もうで」で初めてお会いし、その威厳にやられてしまった「男神坐像」に再会(そのときの記事)。今回は露出展示で前回よりもちょっとお近づきになれました。

禅院額字「釈迦宝殿」(重要文化財 無準師範筆 南宋時代)禅院のお堂に掲げられた大きな力強い書。無準師範(ぶじゅん しはん)は中国・南宋時代の臨済宗の禅僧。このお隣には張即之(ちょうそくし)筆の国宝・禅院額字「旃檀林」(東福寺蔵)も展示されていました(撮影禁止)。こちらの方がより大きくて圧倒されます。
江戸絵画は私の大好きなアーティスト3人の作品がそろい踏み。

波涛図(重要文化財 円山応挙筆 江戸時代(1788)京都・金剛寺蔵)円山応挙のふるさと京都府亀岡市の金剛寺の障壁画。金剛寺には西国三十三所巡礼で穴太寺(21番札所)にお参りしたときに足を運びました。観光寺院ではないからお庭をのぞいただけですが、こうやって点と点が繋がっていくのがうれしい。

秋冬山水図屏風(円山応挙筆 江戸時代)
応挙の雪景色はやっぱりいいなぁ。



四季花鳥図巻 巻下(酒井抱一筆 江戸時代(1818))
抱一の花鳥図もやっぱりいいなぁ。

笛を吹く若衆(鈴木春信筆 江戸時代・18世紀)
春信の中性的な若衆もやっぱりいいなぁ。
宗教美術は装飾経と仏像2体と禅僧の書。

法華経(久能寺経)(重要文化財 平安時代)

阿弥陀如来坐像(静岡・願生寺蔵 鎌倉時代)

男神坐像(重要文化財 大将軍八神社蔵 平安時代)

禅院額字「釈迦宝殿」(重要文化財 無準師範筆 南宋時代)
江戸絵画は私の大好きなアーティスト3人の作品がそろい踏み。

波涛図(重要文化財 円山応挙筆 江戸時代(1788)京都・金剛寺蔵)

秋冬山水図屏風(円山応挙筆 江戸時代)
応挙の雪景色はやっぱりいいなぁ。



四季花鳥図巻 巻下(酒井抱一筆 江戸時代(1818))
抱一の花鳥図もやっぱりいいなぁ。

笛を吹く若衆(鈴木春信筆 江戸時代・18世紀)
春信の中性的な若衆もやっぱりいいなぁ。
室町時代のやまと絵-絵師と作品-(東京国立博物館) [美術展]

企画展示 室町時代のやまと絵ー絵師と作品ー
2017年10月24日(火)~12月3日(日)
東京国立博物館 本館 特別1室・特別2室
「狩野派」や「琳派」といえば思い浮かぶマスターピースがあるけれど、「やまと絵」って茫としてつかみどころがありません。でも、個人的には前から気になっていて、好きな作品も多いのです(以前の記事)。東博で「室町時代のやまと絵」の特集展示があり、講演会にも足を運んで改めて「やまと絵」とは何たるかを学ぶ良い機会となりました。大まかには「漢画系」(主に水墨画)に対するのが「やまと絵」(主に彩色のある絵画)なんだそうです。その説明には深く納得。私は水墨画や山水画ってそれほど好きではないので、その対にある「やまと絵」に惹かれるのは自然なことなのですね。
室町時代のやまと絵を代表する絵師が土佐光信。名前を見たことがあるぐらいだったけれど、彼こそ日本美術史のキーパーソンなんですね。というのも、土佐光信の娘が狩野派の二代目狩野元信に嫁入りしたことが、漢画を得意としていた狩野派がやまと絵を取り入れるきっかけとなったと考えられるそうなのです。まさにこの結婚でやまと絵と漢画がマリアージュして、元信以降の狩野派が生まれたってこと。土佐光信がいなかったら、その後の日本美術も違っていたかもしれません。今まで認識していなかったけれど、土佐派の「やまと絵」ってそれくらい大きい要素なんですね。その後、土佐派は凋落してしまったけれど、光信の画風だけでなく、名前の「信」の字が狩野派絵師の「信」の字に引き継がれていったのだとしたら、光信も少しは報われるかなぁ。
そして、先日の「狩野元信展」(サントリー美術館)で気が付いたことですが、私が狩野派で好きなのはお花や鳥、まさに土佐派の要素。今回の特集展示を見るにつけ、私はやっぱり「やまと絵」が大好き。そんなに上手くもないしセンスがあるわけでもないのですが、見ているとなんだか楽しく幸せな気持ちになってきます。常設展だから撮影OKの作品もたくさんあって嬉しい限りでした。

浜松図屏風 部分(重要文化財、室町時代・16世紀)
これこれ、私の好きないわゆる「やまと絵屏風」。お花と鳥がかわいい。

月次風俗図屏風(重要文化財、室町時代・16世紀)
1-2f5fb.jpg)
2-b747f.jpg)
320-dc79a.jpg)
月次祭礼図屏風(模本)(原本:伝土佐光信筆、江戸時代・19世紀)
これは京都の行事や祭礼を描いた屏風。これまた楽しそうな人々です。

清水寺縁起絵巻 巻中(重要文化財、土佐光信・土佐光茂筆、室町時代・1517年)
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」展(東京国立博物館) [美術展]

興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」
2017年9月26日(火)~11月26日(日)
東京国立博物館 平成館
仏像の配置やライティングが凝りまくっていて、運慶作品の強さがいっそう際立っていました。ひれ伏したくなるような有無を言わせぬ存在感。手を合わせて祈ることができないのがなんとももどかしく、申し訳ないような気持ちになります。
最初の出迎えは、運慶のデビュー作 大日如来坐像(奈良・円成寺)。前から見ると凛々しい若者ですが、横から見るとまるで赤ちゃんのような幼さ。新発見でした。毘沙門天立像(静岡・願成就院)はあまりにも完璧すぎてつけ入るスキがありません。興福寺の諸像もばっちりキメてパワー全開です。
でも、5月にお参りして再会を楽しみにしていた浄楽寺の阿弥陀三尊像は、絶妙なライティングのせいでハリボテみたい。なんだか安っぽくみえます。お寺の宝物館のお姿の方が断然よかったなぁ。やりすぎもいけませんね。浄楽寺と同じ時にお参りした満願寺の観音菩薩立像・地蔵菩薩立像は、運慶「周辺」の仏師のコーナーだから展示も凝っておらず、自然で等身大。作為がなくてこれくらいがちょうどいいです。現地ではみられなかった横顔も拝めて、特に地蔵菩薩のきりりと整ったお顔に見とれました。(三浦半島のご開帳の記事)
運慶の技量と熱量はとてもじゃないけど息子達にも引き継ぐことはできなかったのでしょう。展示の後半、息子たちのパートになると、まるで温度が違って平温になります。今回、改めて運慶が突出した存在だと実感しましたが、これだけ集まるとちょっと息苦しいほど。今年は春に快慶展もありましたが、同じ慶派仏師でも作風は全く違って快慶の仏像はクールビューティー。運慶のすごさは承知の上で、私自身は快慶仏の方に救いを求めたいと思います。(快慶展の記事)
「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」展(京都国立博物館):その他編 [美術展]

開館120周年記念 特別展覧会 国宝
2017年10月3日(火)~11月26日(日)
京都国立博物館 平成知新館
仏画以外では絵巻と屏風絵に見入ってしまいます。反対に山水画や中国絵画、工芸品にはあまり興味がなく、レアものの曜変天目(京都・龍光院)も素通りしちゃったし、雪舟尽くしの展示室も思ったほど感じ入りませんでした。2014年の東博の「日本国宝展」でも同じ傾向だったので、人の好みってそんなに変わらないのでしょうね(成長していなだけか)。あと東京ではおなじみの「雪松図屏風」(三井記念美術館)や「燕子花図屏風」(根津美術館)が鳴り物入りだったりして、地域差も感じました。
・信貴山縁起絵巻(奈良・朝護孫子寺)
大好きな尼公ばあさんと再会(そのときの記事)。なんともほっこりするな~。こんなおばあちゃんになりたい。今回、尼公が弟の行方を尋ねて寄った家の奥にネコを発見。棚の上でお昼寝中です。日本最古の「絵に描かれた猫」だそう。家の外にはわんこもいました。
・華厳五十五所絵巻(奈良・東大寺)
善財童子がかわいくて萌えました。善財ちゃんは男子の設定だけど、どうみても小学生女子にしかみえません。文殊菩薩の勧めに従って55人の聖人を次々と訪ね歩く善財ちゃん、弱音もはかず、愚痴も言わず、素直でけなげ。感情移入して応援しちゃいます。最後、悟りを得られてホッとしました。まるで母親の気持ちです。
・花鳥図襖 狩野永徳筆(京都・聚光院)
さえずりが聞こえてきそうな鳥のかわいさはおじいさん譲りですね。狩野元信(永徳の祖父)の展覧会をみたばかりだったので、2人の共通点がよくわかりました。

・金剛経 張即之筆 蘭渓道隆筆
蘭渓道隆が影響を受けた書家が南宋の張即之(ちょうそくし、1186~1266年)なんですって。2人の金剛経が並んで展示されていましたが、オリジナルの張即之より真似した蘭渓道隆の字の方が上手で繊細にみえます。蘭渓道隆はその頂相(似顔絵)や墨蹟(自筆)から器用な秀才のイメージなので、やっぱりなぁ、とうなずけました。
・伝平重盛像・伝源頼朝像・伝藤原光能像(京都・神護寺)
この教科書で有名な肖像画、でっかいですね。その大きさに圧倒されてしまいました。神護寺の虫払でみているはずですが、こんなに大きかったっけなぁ。等身大以上です。ここまで大きく描くのには、なにか重要な意味があるのでしょうね。本当はだれを描いているのか、興味がつきません。
・帰牧図 李迪筆(奈良・大和文華館)
中国絵画から1点入選。「雪景色」と「牛」という大好きなモチーフが重なっていて、有無を言わせず「お気に入り」に登録です。


・兜跋毘沙門天立像(京都・教王護国寺)
東寺の宝物館で何度もお会いしている毘沙門天ですが、お出かけ先の展示室では全く違ってみえます。いつもの5割増しでかっこよかったです。
「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」展(京都国立博物館):仏画編 [美術展]

開館120周年記念 特別展覧会 国宝
2017年10月3日(火)~11月26日(日)
京都国立博物館 平成知新館
お気に入りとの再会と新しい出会いを楽しみにⅡ期とⅣ期の2回足を運びました。お祭りみたいなものだから混雑は想定内。これだけランダムに名品が並ぶと自分の好みがよーくわかります。やっぱり仏画の前で足がとまりました。
・釈迦金棺出現図(京都国立博物館)
涅槃に入られたお釈迦様がイエスキリストのようによみがえった場面を描いています。涅槃図といえばお釈迦様は横たわっているのでとても珍しい構図。周りに集まっている衆生もこころなしかビックリしているように見えました。その人物の何人かに小さく名前が書きこまれているのを単眼鏡で見つけて急に親近感。“〇〇さん、よかったね!”と一緒に喜びたくなりました。名前って大事ですね。

・釈迦如来像(赤釈迦)(京都・神護寺)
いならぶ仏画の中でも神秘度が極まっていて、博物館の中にも関わらず抑えようもない霊力を発散していました。すべて見透かすようなまなざしで、男性にも女性にもみえる高貴なお顔。近寄りがたく畏れ多く、美しいけれど美術品とはなりえない生きている仏画です。切れ長の目をよくよくみると黒目には赤い縁取り、白目の目尻には青が入っています。赤い衣に施された截金もめちゃくちゃ手が込んでいます。
・千手観音像(東京国立博物館)
千手観音は多くの手をどう処理するかが難しいので、仏像も仏画もあまりグッときません。でもこの千手観音は多手を破綻なくまとめて、違和感がありません。東博の所蔵なのに今までその存在を知りませんでした。嬉しい出会いです。
・両界曼荼羅図(京都・教王護国寺)
東寺の暗くて狭い宝物館でみるのとは全く違ってみえました。華々しいステージでパワー全開、きらきらして鮮やかで圧倒されます。これが9世紀の作なんて信じられません。当時これだけのものを造る技術があったという事実に、そして21世紀の現代まで1200年もその威力を失わずに伝えられてきた事実に、ただただひれ伏すしかありません。解説によると中国製という説もあるそうです。そうかもしれないな、と腑に落ちました。
・十二天像(京都国立博物館)
この京博の十二天像はあまり良さがわかりません(以前の記事)。平安時代後期の1127年に描かれ、東寺(教王護国寺)での儀式に使われていました。当時の貴族好みの濃厚な耽美主義的作風といわれていて、贅は尽しているけれど、退廃的で気持ちが悪いのです。この十二天像をみると、この後、貴族社会が崩壊していくのも予感できるような気がします。世紀末的というか末法の世というか、ひとつの時代が終わっていくのを象徴しているような仏画です。
・孔雀明王像(東京国立博物館)、十一面観音像(奈良国立博物館)
今回、出品された仏画13点のうち、国立博物館の所蔵するものが7点。明治の廃仏毀釈でお寺から放出され、国立博物館の所蔵となっている仏像や仏画は少なくありません。この2点の解説文にはその来歴が記されていました。孔雀明王像は「高野山→井上馨→原三渓→東博」、十一面観音像は「法起寺→井上馨→益田鈍翁→奈良博」と次々と所蔵者が変わっています。なんだか複雑な気持ちになりますね。お金で売買するようなものではないと思うけど、お寺を救ったのも事実だからなぁ。
天下を治めた絵師 狩野元信(サントリー美術館) [美術展]

六本木開館10周年記念展 天下を治めた絵師 狩野元信
2017年9月16日(土)~11月5日(日)
サントリー美術館
二代目って徳川将軍家にしても、二代目社長や二世タレントにしても、あまりぱっとしないイメージです。狩野派も同じで二代目が元信であることも、その元信の代表作も思い浮かびませんでした。今回の展覧会ちらしのメインビジュアルに京都国立博物館の「禅ー心をかたちにー」展でお気に入りに登録した大仙院方丈障壁画の「四季花鳥図」が使われていて(そのときの記事)、“あー、あの襖絵を描いたのが二代目元信だったのね”と認識しました。
「四季花鳥図」(京都・大仙院)は俯瞰してみると堂々として荘厳なんだけど、近寄ってフォーカスすると鳥のかわいさがたまりません。大寺院の障壁画なのにほのぼのしちゃう。ちゃんと鳥の視線が行き交っていて、見つめ合ったりさえずり合ったり、まるで女子高生みたいに楽しそうです。「花鳥図屏風」(栃木県立博物館)の鳥も水浴びをしたり、花の蜜を食べていたり、うとうとと寝ていたり、いろんなポージングで癒されました。同じ鳥でも決して視線を交わさない他人行儀の伊藤若冲の鳥とは真逆。性格が絵にもでているんでしょうね。私の中の元信は好奇心旺盛でチームワークを大事にするコミュニケーション上手な二代目のイメージとなりました。
意外なところでは、一昨年、山梨県立博物館でお気に入りに登録した「富士曼荼羅図」(静岡・富士山本宮浅間大社)(そのときの記事)。“これも元信だったのか~”と嬉しい再会でした(実際は「元信印」なので真筆かは分からない)。名前を意識していなかったから気づけなかっただけで、実はかなりの元信好きなのかも。展示解説によると、元信は狩野派の漢画に土佐派のやまと絵を取り込んだそうですが、私が好きな元信は新しく取り入れたやまと絵の部分らしいです。漢画がオリジナルの山水図や仏画にはまったく反応しませんでした。ともあれ、二代目元信、しっかりと頭に刻み込みます。


「四季花鳥図」(京都・大仙院)

「富士曼荼羅図」(静岡・富士山本宮浅間大社)
シャガール 三次元の世界(東京ステーションギャラリー) [美術展]

シャガール 三次元の世界
2017年9月16日(土)~12月3日(日)
東京ステーションギャラリー
まだ若かりし20代の頃、私が最初に好きになった画家がシャガールです。それ以来、何度もシャガールの展覧会に足を運んできました。でもそこに展示されていたのは油絵か版画ばかり。立体作品を作っていたなんて全く知りませんでした。
シャガールの魅力はかわいらしさと不気味さがないまぜになった不思議な世界に遊ばせてくれること。もちろんそれは自由に描かれた絵画の方がダントツです。でも立体作品もやはりまがいもないシャガール世界。花束、山羊、ロバ、牛、鶏など、絵画に頻出するモチーフがそのまま壷やレリーフになっていて、シャガール好きにはたまりません。特に二次元では表現できない丸みやくぼみにはうっとり。ロバの壷のふっくらとした立ち姿はまるで女性の体のラインですし、男女が絡み合う大理石の彫刻からは幸せオーラが立ち上っています。「愛の画家」と呼ばれるシャガール、健全なエロティシズムを絵画以上に感じました。
シャガールの知らなかった一面を取り上げて見せてくれた展覧会。東京ステーションギャラリーはいつも新しい世界を垣間見せてくれる美術館です。今夏の「不染鉄」展でも素晴らしい日本人画家を知ることができました(そのときの記事)。2013年の「大野麥風」展も忘れられません(そのときの記事)。ここに来ると私の美術フィールドが確実にぐっと広がります。
前の10件 | -